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2025年

第003座 カフカ断片集

カフカの文章独特の謎めいた味わいは、ほかの作家ではぜったいに味わえない甘露なので、味わいたければ彼のテクストを何度も繰り返したどるしかない。だが、彼が生前遺したテクストは限られていて、その量はかき集めてみても微々たるものである。このように、好きなものほど手に入りにくく、手に入るものは粗悪品ばかりという状況を俗に「カフカ的矛盾」と言う。 ✳︎ カフカは死ぬ間際、友人に自分の原稿はすべて処分するように […]

第002座 世界のふしぎな色の名前

小学生のころ、絵の具の色ではじめて聞き覚えた色の名前がビリジアンだった。これはわたしと同世代でなくてもきっと共感してもらえると思う。絵の具の色の名前にはもうひとつ、セルリアンブルーというのもあったけれど、こちらはまだ「ブルー」と言っているところがどこか言い訳じみているというか、日和見主義な感じがして好きではなかった。 ✳︎ で、ビリジアン(viridian)だ。青みがかった深い緑を指すこの色の名前 […]

第001座 きのこの自然誌

今年の正月は、年の瀬にどこかで貰ってきた風邪が尾を引いていて、文字どおり寝正月になりそうだ。とにかく咳がひどく、なかなか抜けない。英語では頑固な咳のことを「persistent cough」というけれど、このpersistentの語感はまさにいつまでもしつこく抜けない咳のイメージがしっくりくる。 ✳︎ 元日のきょうは初詣はおろか、積読本の整理もできないままに、もそもそとお雑煮を食べたあと、小川真『 […]